怪人二十面相

nijumensou.jpg前に書いたように、ポプラ社の「少年探偵・江戸川乱歩全集」旧版27巻以降(大人小説のリライト物)は5冊しか持っていないのですが、26巻まで(オリジナル少年物)は、当時のものが今でも21冊ばかり手元にあります。念のため記すと、欠けているのは18『魔法博士』19『灰色の巨人』20『魔人ゴング』23『悪魔人形』25『黄金の怪獣』の5冊です。全部揃わなかったのは、単にお小遣いが足りなかったからですが、この5冊を特に除外して買わなかった理由はよくわかりません。何となくつまらなそう、或いは表紙や挿絵が気に入らない(定番の柳瀬茂氏じゃない)、と言ったことからでしょうか。
それはさておき、先日からその21冊のうち何冊かチョイスして読み返していました。当たり前の話ですが、少年時代に読んでいた時のような感興はなかなか甦って来ません。特に後半期の作品、つまり怪人、電人、宇宙人などが跳梁跋扈する話は少し退屈です。どんな奇怪な化物が現れても、その正体が怪人二十面相であることはバレバレだし、宇宙人やロボットにしては、やることがみみっちい上に、最終目的は所詮明智小五郎と少年探偵団への復讐なんですから、ガックリです。この情けなさは、世界征服を謳いながら幼稚園バスを襲うショッカーの怪人を彷彿させるものがありますね^^;
それに比べると、戦前に書かれた初期の作品はまだしもグレードが高いです。だいたい、ポプラ社版を比較してみても、後半作の多くは大きな活字でページを組んで全体のぺージ量を増やして、薄い中身を誤魔化しているのですが、初期作品は小さい活字で1ページにびっしり。分量も内容も濃いです。
中でも『怪人二十面相』は第1作目と言うことで、子供向けとは言え乱歩も力が入っていたのでしょう、面白さは群を抜いています。

そのころ、東京中の町という町、家という家では、ふたり以上の人が顔をあわせさえすれば、まるでお天気の挨拶でもするように、怪人「二十面相」のうわさをしていました。

と、こんな書き出しで始まる『怪人二十面相』は、最初から二十面相と呼ばれる怪盗の存在を明示しています。単なる愉快犯に堕落してしまった後半期と違い、この頃の二十面相は美術品しか狙わず、犯行の際には必ず「予告状」を送りつけ、血を見るのが嫌いな正真正銘の「怪盗紳士」。その二十面相が羽柴家の財宝に目を付けるところから物語は始まるのですが、一方で、我らが名探偵・明智小五郎はまだ姿を現しません。明智は外国出張中と言うことで、代わりに「りんごのようなほおをした」美少年の助手・小林少年が登場します。この小林少年の活躍でひとまず盗難は阻止され、やがて中盤になって漸く明智が外国から戻って来て、登場します。しかもそこへ、外務省の役人に化けた二十面相が、大胆不敵にも明智を東京駅まで出迎えに現れるのですから、ボルテージは最高潮に上がります。ステーション・ホテルの一室で、二人っきりで明智と差し向かいになった二十面相は、さも親しげに語りかけるのです。

「明智さん、ぼくは、どんなにかきみに会たかったでしょう。一日千秋の思いで待ちかねていたのですよ」

対する明智も負けていません。

「ぼくこそ、きみに会いたくてしかたがなかったのです。汽車の中で、ちょうどこんなことを考えていたところでしたよ。ひょっとしたら、きみが停車場に迎えに来ていてくれるんじゃないかとね」

ああ、なんと格調の高い名場面でしょうか!…と、読んでいるこっちも思わず乱歩の語り口調になってしまうような^^;明智と二十面相との初コンタクトシーンの描写です。名探偵と怪盗が、表面はにこやかに談笑をかわしながら、腹の中で火花を散らす、息詰まる心理戦…。このあたりのくだりは、今読み返していても思わずワクワクしてくるのですから、子供時代に初読した時には、さぞかし心を躍らせたことでしょう。余談ですが、私はこの中の「一日千秋」と言う言葉を知って気に入ってしまい、当時、国語の作文では意味もなく連発していたような気がします^^;
物語の後半は、いよいよ明智と二十面相、「巨人」と「怪人」との、知力を尽くした直接対決。傍若無人にも国立博物館のお宝を全て頂戴すると予告し、真っ向から明智に挑戦して来た二十面相の恐るべき策略とは?迎え撃つ明智の秘策は?そして小林少年と少年探偵団の活躍は?…と言う訳で、最後まで盛り上がりにこと欠きません。
ちなみに「少年探偵団」はこの第1作目で、物語前半の登場人物・羽柴少年の音頭で小林少年を頭に仰いで結成され、ラストシーンの国立博物館前での二十面相捕縛に活躍しています。シリーズ定番の「明智先生ばんざーい、小林団長ばんざーい」による〆も既に始まっています。後年、上野の博物館に行った時には「ああ、ここで二十面相が逮捕されたのかぁ」と感慨深かったです^^;


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文庫本あれこれ

現在は絶版のもの、版は重ねているが装丁が異なるものがあります。

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坂口安吾『不連続殺人事件』と『復員殺人事件』(角川文庫)
『不連続』の表紙は映画のスチール。たぶん10年以上この表紙が続いたんじゃないかと思うのですが、ATGのマイナー作品な上、あまりテレビで放送されたこともないので(私は一度観ましたが)殆どの読者に何の場面だかわからなかったのではないかと思うのですが^^;
『復員』は絶版みたいですね。

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三島由紀夫『仮面の告白』と『音楽』(新潮文庫)
新潮文庫の三島作品と言えばタイトルと名前を大書きしただけのシンプルな装丁が定番でしたが、最近のものはだいぶカラフルなデザインになっているようです。
ちなみにこちらは角川文庫の三島作品ですが、
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…なんで同じような装丁だったんでしょうか(笑)

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カミュ『太陽の讃歌』と『反抗の論理』(新潮文庫)
新潮文庫はこういうシンプルな装丁が多かったですね。現在は絶版です。
しかし俺、こんなの本当に読んだのかな^^;

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安部公房『幽霊はここにいる・どれい狩り』と『緑色のストッキング・未必の故意』(新潮文庫)
これも今、絶版なんですね。知りませんでした。うかうかしてると、みんな絶版になっちゃいますね。。。

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岡本綺堂『半七捕物帳』(旺文社文庫)
受験で有名な旺文社は昔、名作物を中心に文庫を出版していました(現在は廃刊)

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田河水泡『のらくろ漫画集(1)』(講談社・少年倶楽部文庫)とつげ義春『腹話術師』(講談社漫画文庫)
漫画の文庫本化のはしりとなったのが、たぶんこの「少年倶楽部文庫」ではなかったかと思います。
以後漫画を扱う出版社からは続々漫画文庫が創設されました。


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ミステリーあれこれ

別に珍しいものはありませんが、お慰みに載せときますね。

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『江戸川乱歩傑作選』(新潮文庫)
現在でも出版されていますが、装丁が違います。

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海野十三『美しき鬼』(ポプラ社)は「名探偵シリーズ」の第9巻。内容は海野十三の『蝿男』をリライトしたものです。右は『深夜の市長』(桃源社)

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『久生十蘭全集』(三一書房)第7巻(「十字街」等収録)と『魔都』(社会思想社・教養文庫)
久生十蘭、結構好きでしたね。

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空前のブームとなった角川文庫の横溝正史作品。

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『横溝正史の世界』(徳間書店)と『探偵小説五十年』(講談社)
エッセイ集もでました。

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『死仮面』(カドカワノベルス)
こちらは横溝死去の直後に出された新刊。
「さよなら」の文字が悲しい…

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小栗虫太郎『黒死館殺人事件』(桃源社)
うー。実はこれ、いまだに読んでいない。。。

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『新青年傑作選』
戦前の探偵小説誌「新青年」の傑作選。左は立風書房版、右は角川文庫版

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『宝石推理小説傑作選』(いんなあとりっぷ社)
戦後の推理雑誌「宝石」の傑作選。

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昭和54年版「江戸川乱歩全集」(講談社)

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現在では江戸川乱歩の全作品(小説、少年物、随筆、評論)を網羅した全集が文庫廉価版で容易に手に入りますが、私が乱歩を読み始めた当初は、ポプラ社の少年探偵シリーズのほかには春陽堂文庫版と角川文庫版、それと新潮文庫の『江戸川乱歩傑作選』があるぐらいでした。
しかし昭和54年に講談社から乱歩の全集(全25巻)が出版され始めました。
しかもこれはその10年前の昭和44年に出版されその後は絶版になっていた全集を増補した「決定版」とのこと。乱歩ファンとして買わずにはいられません。毎月980円×2冊ずつ配本で1960円ですから、その頃いくら小遣いを貰っていたか忘れましたが、当時の中学生としちゃ、結構高い買い物でしたね^^;
尤もこの全集、「決定版」と言いながら実は少年物と評論・随筆は一部しか収録されていません。なので数年後に同じ講談社から旧版をさらに増補した全集が、しかも文庫廉価版で出たときには、「騙された」と思いました^^;まあ、後から出る方がだんだん内容が充実していい物になっていると言うのは、よくある話ですが。
全集の内容は、1~15巻が「小説」、16~22巻が「評論・随筆」、23~25巻が「少年物」となっており、各巻毎に中島河太郎の「解題」と、著名な作家評論家らの「解説」が付き、イラストは古沢岩美、永田力、横尾忠則の各氏(ただし横尾氏のイラストは昭和44年版全集からの使い回し)でした。
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第1巻『屋根裏の散歩者』挟み込みの「月報」1。横溝正史が乱歩の思い出を書いています。

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全巻が揃った場合の箱の背の絵柄はこうなります。

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第3巻の箱帯に「江戸川乱歩ポスター」プレゼントの告知がありました。
応募しなかったので、どんなポスターが貰えたのか知りませんが…。


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ポプラ社「少年探偵シリーズ」旧版27巻以降

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昨年来、ポプラ社の「江戸川乱歩全集・少年探偵シリーズ」が、私が子供の頃に愛読していた時代の懐かしい表紙・装丁により文庫版で復刻しています。
特に、大半の表紙絵・挿絵を手掛けた柳瀬茂氏の、ちょっとレトロ感覚でロマンティックでミステリアスな画風には、当時どれほど想像力を掻き立てられたことでしょう。やっぱり「少年探偵シリーズ」はこれでなくっちゃ、と思います。
でも…残念ながら、と言うか、当然ながら、と言うか、旧版の27巻以降、つまり乱歩の大人物小説を他の人が書き改めた作品は復刻しませんでした。
件の旧版27~46巻のうち、私が持っているのは6巻分だけです。だって貧乏な小学生だったから、お金がなくて買えなかったんだもん^^;それに途中から、乱歩のオリジナルの方を読み始めてしまったので、ポプラ社版は買い揃える必要もなかったのです。
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現在も手元にあるのは第27巻『黄金仮面』、28巻『呪いの指紋』、30巻『大暗室』、31巻『赤い妖虫』、34巻『緑衣の鬼』、42巻『蜘蛛男』です。ただこのうち『黄金仮面』は「少年探偵シリーズ」ではなくて「名探偵シリーズ」の第1巻となっています。
これは確か古本屋で買ったのですが、元々旧版の27巻以降は「少年探偵シリーズ」とは別のシリーズとして発行されていたらしいです。この「名探偵シリーズ」には乱歩だけではなく横溝正史や高木彬光、海野十三らのジュナイブル作品も収録されています。
しかし便利な時代になったもので、ネット上を検索すると「少年探偵シリーズ」の表紙は比較的容易に画像が検索できるので、旧版27巻以降の分も見ることができます。ただ、さすがに中身の挿絵まで見せてくれているところは、ないようです。ならば、かくなる上は私が…と思ったのですが、私が持っているのは6冊だけだし^^;それに1冊分を全部見せるわけにもいきません。そこで、ほんのごく一部だけですがアップしてみますので、往時を懐かしんで貰いたいと思います(なお挿絵は柳瀬茂氏です)。
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『赤い妖虫』

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『呪いの指紋』

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『蜘蛛男』

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