病院坂の首縊りの家

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石坂浩二主演の金田一耕助シリーズ第5作目にして最終作(1979年・東宝・市川崑監督)。

物語。昭和26年初冬。
渡米の挨拶のため旧知の老推理作家(横溝正史@本人)を訪ねた金田一は、その足でパスポート用の写真を撮りに本條写真館を訪れる。そこで金田一は、主人の徳兵衛(小沢栄太郎)から、先日殺されかけたので調査してくれと依頼される。
その晩、徳兵衛の息子・直吉(清水紘治)と助手の黙太郎(草刈正雄)は謎めいた美しい娘(桜田淳子)から、病院坂の法眼家の空き屋敷で婚礼写真を撮影して欲しいという注文を受ける。
数日後、再び同じ場所で「風鈴」の撮影をして欲しいと依頼され法眼家の屋敷を訪れた徳兵衛親子、黙太郎、そして金田一は、そこでシャンデリアの鎖に吊るされた無残な生首を発見する…。

原作小説を読んでもイマイチよく呑み込めない、横溝作品の中の錯綜する人間関係。まして読み返しの効かない映像となれば尚更。特にこの作品ではそれが顕著です。東宝も気が咎めたのか、公開時の劇場パンフには系図が掲載されていました。でも、そんなもん、上映中にいちいち見ちゃいられませんわね。

前作「女王蜂」から1年余の間を置いて公開された、シリーズ最終作。
この映画は過去の4作とは、かなり趣きを異にしています。
まず、あの独特の明朝体によるキャストロールがありません。出演者の順番も佐久間良子が最初で、金田一・石坂浩二の名前は最後に紹介されます。
物語の舞台が田舎から都会に移っています(原作は東京が舞台ですが、映画では「吉野市」と言う地方都市を設定しています)。
金田一の影は薄く、従って推理物としての要素はシリーズの中で最も薄いです。
その分、入江たか子、佐久間良子、萩尾みどり、桜田淳子と四代?にわたる女性の、運命に翻弄される哀しい姿を今まで以上にたっぶり描くことの方に主眼がおかれています。

本格ミステリーとしての醍醐味を犠牲にしても動機の解明に重き置いた点で、前作「女王蜂」で極まったストーリーのグダグダ感はかなり払拭されていますが…、それにしても2時間半は長過ぎ。やはり「獄門島」で止めておくのが、ベターでしたね。

シリーズ犯人役女優が総出演した「女王蜂」に対して、本作にはあおい輝彦、小沢栄太郎、ピーター、岡本信人らシリーズの男優陣が再出演。
桜田淳子は難しい二役を演じたことで、当時この作品で女優開眼と評価されたような記憶がありますが、残念ながらその後大成することなく宗教に走ってしまいました。。
常連の小林昭二はシリーズ中、最も出番が少なく台詞が少なかったにもかかわらず、最も印象に残る役を好演しています。


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用心棒

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三船敏郎の男っぽい背中が最高!(1961年・黒沢プロ&東宝・黒澤明監督)

物語。空っ風の吹く上州のとある宿場町。ここでは馬目の清兵衛(河津清三郎)と新田の丑寅(山茶花究)というやくざが、町を二分して縄張り争いを繰り広げていた。そこへふらりと現れたのは、桑畑三十郎(三船敏郎)と名乗る凄腕の浪人だった・・・。

オープニングタイトルから観客をワクワク、ドキドキさせないような映画はダメですね
この映画を見ると、つくづくそう思います。

お馴染み東宝マークに続き、佐藤勝の軽快で怪しげな音楽に乗せて「用心棒」というタイトル。
そこにかぶさるようにして画面いっぱいにぬっと現れる、三船敏郎の大きな背中。
そして悠然と、肩を揺さぶりながら歩いて行く後ろ姿の長回し。

この時点でもう、これからどんな面白い話が始まるんだろう…と心が躍ります。

三船扮する浪人・三十郎はメチャクチャ腕の立つ侍。
しかし、むやみやたらと刀を振り回すわけではなく、町の二大やくざを突き合わせて一挙に壊滅させようと機智を働かせます。
この映画の魅力は何より三十郎の人物設定にありますね。

そして三船に対するライバルとして抜擢されたのが、仲代達矢。
生っ白くて、キザなマフラーなんか首に巻いているにやけた優男。
しかし懐には常に横浜仕込みの三連発銃を忍ばせているので、いかに凄腕の三船とて容易に手は出せません。
しかし飛び道具には飛び道具で…とばかりに、最後にはあっと驚く秘策で勝負を挑みます。
三船と仲代の対決シーンと言うと、続編の「椿三十郎」の方が有名ですが、こちらの方もなかなかの出来です。

出演者は他に山田五十鈴、東野英治郎、藤田進、加東大介、志村喬、藤原釜足、沢村いき雄、土屋嘉男、司葉子ら。
この中で注目なのは用心棒・本間先生を演じた藤田進。
なにしろ往年の「姿三四郎」(1943年)だし、「隠し砦の三悪人」(1958年)でもカッコイイ侍を演じている黒澤映画のスターの1人。
なのでこの映画でもさぞかし…と思って見ていると、アリャリャ…というキャスティングの妙に笑わされます。
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天国と地獄

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サスペンス映画の傑作(1963年・黒沢プロ&東宝・黒澤明監督)

物語。横浜の高台に豪邸を構える製靴メーカーの常務・権藤(三船敏郎)は、密かに会社の株を買占め経営権掌握の工作を行っていた。
そんな最中、1人息子の純(江木俊夫@のちのフォーリーブス)を誘拐した、身代金3000万用意しろ、という脅迫電話がかかる。うろたえる権藤と妻・玲子(香川京子)。だが純は家にいた。犯人は運転手の息子を間違えてさらったのだ。しかし犯人は運転手の息子でもかまわない、身代金を払え、と言う。苦悩の末権藤はその要求に応じることにする。
犯人は、札束を詰めた鞄を持って特急第二こだまに乗車するよう権藤に命じる。洗面所の通風窓が7センチ開くはずだと言うのだ…。

映画は前半、権藤邸内部でのやりとりが長々続き、やがてそこから一転、いきなり疾走する特急こだまへと舞台が移ります。
この映画はリバイバル上映時に映画館で見たし、テレビやビデオでも何度も見ているにもかかわらず、この静から動への鮮やかな転換にいつもはっとさせられます。映画の何たるかを知り尽くした黒澤監督らしい見事な演出です。

後半では仲代達矢扮する警部を中心に、警察による地道な犯人捜索の模様が細かに描かれていきます。
川辺を歩く刑事たちの姿が画面から切れていくと、今度は向こう岸を歩いてくる犯人・山崎努が現れ、途中からは観客に犯人が明かされた上で刑事たちがその姿に徐々に迫っていくという倒叙的な手法がとられます。

盛り場のむせ返るような熱気は「生きる」を、暗闇に咲く花は「姿三四郎」を、そして犯人逮捕の場面で流れる明るい音楽やラストシーンの慟哭は「野良犬」を彷彿させるほか、往年の黒澤映画の主役・藤田進と志村喬が贅沢にもチョイ役で出演するなど、黒澤映画の集大成的な側面も見られます。

ちなみに駆け出し刑事役の木村功はこの当時40歳のベテランで既に名優の地位を築いていたにもかかわらず、黒澤の頭の中ではいつまでたっても若僧のままだったのか、「七人の侍」(1954年)の若侍の頃から一向に成長させてもらえていないのが可笑しいです。
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海底軍艦

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「マタンゴ」と同じ年に作られた東宝特撮物(1963年・東宝・本多猪四郎監督)

物語。一万二千年前に水没したはずのムウ帝国は、海底で今なお高度な文明を築いていた。
ムウは、地上の全世界を植民地として返還するよう要求してくる。
ムウ帝国に立ち向かえるのは、かつて日本の敗戦前夜に脱走した特殊潜水艦の艦長・神宮司大佐(田崎潤)が密かに建造したという海底軍艦・轟天号しかないと判断した国連は、神宮司の元上官・楠見(上原謙)や娘の真琴(藤山陽子)らを説得に向かわせるが…

映画は冒頭、カメラマンの高島忠夫と藤木悠が埠頭で水着モデルの撮影をしているところへ海底人(ムウ帝国人)が現れる…というところから始まります。一見SFや怪獣と縁のなさそうな民間人が事件に遭遇して以下の物語の狂言回しを務めるのは昭和特撮物によくあるパターン。
やがてムウ帝国からの宣戦と攻撃が始まる一方、神宮司の娘をストーカーしていた男・天野兵曹(田島義文)が捕まりその口から神宮司大佐の生存が明かされ…と、映画の開始から60分近く経って漸く海底軍艦が姿を現します。のっけからいきなりクライマックスが来たように飛ばす昨今のドラマ展開を見慣れた人からは、物語が徐々に核心に進んでいく昭和のテンポはのろくてつまらなく感じるでしょうが、私などにはむしろこの「焦れったさ」が何ともいえません。

さて、海底軍艦出撃を要請された神宮司こと田崎潤ですが、いまだに神州不滅・米英撃滅しか頭にないのでこれを拒絶します。
特撮(怪獣)映画は戦争映画だって言われますけど、この作品なんかには特にその色が濃いです。製作当時の戦後18年と言ったら戦争はまだついこのあいだの話なんですから。
尤も、田崎潤とか田島義文とかあまり理知的な感じのない顔ぶれに、どうやって高度な海底軍艦を建造できたのか、謎ですが…^^;;

一方、ムウ帝国の側も、地上の人類をも凌ぐ高度な文明を持っているにもかかわらず、何故か皇帝はクレオパトラみたいな格好しているし、住民たちも半裸で腰蓑つけて槍持って、マンダの神に祈りを捧げて踊っています。しかも、このうちの1人がなんと、平田昭彦!けっしてマッチョとは言えない上半身晒して胸毛なんか生やしている姿は見ものです。

海底軍艦建造を阻止せんとするムウ帝国は神宮司の娘と高島忠夫を拉致。すると田崎潤、娘可愛さの余りか一夜にして今までの信念を捨て、世界のため出撃することを決意します。ってアンタ、節操が無さ過ぎ。第一、今まで18年間も故郷家族を捨て付き従ってきた部下たちはそれで納得してるんでしょうか。

それはともかく、調子こいた海底軍艦はムウの守り神・龍のような怪獣マンダを一蹴、更に娘が無事救出され逆にムウ皇帝を捕虜にするや、その目の前でムウ帝国を木っ端微塵に壊滅させて見せます。ムウ帝国がちっとも強そうに見えないため、そこまでしなくても…という感じで非常に後味は悪いです。
ムウ帝国の方も、長老の天本英世(当時37歳!)の「我々より劣った地上の民族にそんなことができるはずがない!」の一言でロクに抵抗もせず。だったら今まで散々海底軍艦建造を恐れていたのはなんだったのか…と、前半の展開が嘘のようにドタバタと慌しく結末を迎えてしまいます。マンダだけに、竜頭蛇尾の結末とはこのことか。

滅び行く祖国に殉ずべく海水に身を投じるムウ皇帝の物悲しい姿が哀れを誘います。気品と威厳のあるこのムウ皇帝を演じた小林哲子は後に「不良少女とよばれて」や「乳姉妹」などの大映ドラマで主人公の母親役を演じた女優さん。でもこの頃は若いし、それにこのケバいメイクでは、とても同一人物とは思われませんネ。
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女王蜂

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石坂浩二主演の金田一耕助シリーズ第4作(1978年・東宝・市川崑監督)。

物語。昭和7年、伊豆・月琴の里。源頼朝の後裔という大道寺家に宿泊した2人の学生・日下部仁志(佐々木勝彦)と速水銀造(仲代達矢)のうち、仁志が娘の琴絵(萩尾みどり)と恋仲になるが、3ヵ月後に仁志は謎の死を遂げる。
大学を卒業した銀造は琴絵と結婚するが、2人は名目だけの夫婦であり、琴絵は仁志との間にできた娘・智子と月琴の里にとどまり続けた。
昭和27年、19才の誕生日を迎えた智子(中井貴恵)を京都に引き取るため銀造たちが伊豆に到着した日の夜、智子に求婚していた男たち(石田信之、中島久之、佐々木剛)の1人・遊佐が殺される…

崑監督自身はもうやりたくなかったのに、東宝に頼み込まれて仕方なく撮ったという本作。
今までのシリーズなら、物語の舞台情景・登場人物がじっくり描かれてから徐に事件…ということになるのに、この作品では冒頭に昭和7年から27年までの出来事を詰め込めこんでいきなり事件が始まり、そしてゴチャゴチャ人物を登場させてしまう、余裕のなさ。
その事件にも過去にあった「見立て殺人」のような殺人にまつわる意味づけがない上、物語の比重はむしろ昭和7年の事件の方に置かれているので、現在進行中の出来事に関しては非常につまらないものになっています。

更に致命的なのは、「女王蜂」とまで称されるヒロイン・智子を演じた中井貴恵(本作にてデビュー)にさっぱり魅力がないこと。尤も公開当時は「往年の大スター佐田啓二の娘」「早稲田の女子大生」と言う肩書きだけで何となくお嬢様っぽいイメージを持たせることができたのですが、今となってはただの平凡な素人娘にしか見えません。
高峰三枝子、岸恵子、司葉子と過去3作の犯人役女優プラス仲代達矢、沖雅也、伴淳三郎と共演者はやたら豪華だし、陰影の奥行きある映像美は相変わらずですが、物語自体は至って平板で冗漫です。

大女優が回想シーンで若作りするのがこのシリーズの見所のひとつですが(別に見たかありませんけど^^;)、本作では仲代達矢まで詰襟服の大学生を演じています。仲代の学生姿なんて、他には「炎上」(1958年)ぐらいでしか見たことないです。
石田信之はミラーマン、佐々木剛は仮面ライダー2号、高野浩之はバロム・ワン、更に常連の小林昭二は「ウルトラマン」のキャップ&「ライダー」のおやっさんだし、石坂浩二も「ウルトラQ」のナレーターと来ては、飛んだところで特撮ヒーロー大集合。ちなみに刑事役の1人、冷泉公裕は「ウルトラセブン」第45話「円盤が来た」のフクシン青年でした。同作のペロリンガ星人(の人間体)役でもあった高野浩之との再会シーンは、あったかなかったか。
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獄門島

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石坂浩二主演の金田一耕助シリーズ第3作(1977年・東宝・市川崑監督)。

物語。昭和21年9月、金田一は友人の依頼で戦死した鬼頭千万太の遺書を届けに瀬戸内海の獄門島を訪れる。死の直前、千万太は「俺が帰ってやらないと3人の妹が殺される…」と言い残していた。その言葉通り、やがて月代(浅野ゆう子)雪枝(中村七枝子)花子(一ノ瀬康子)の三姉妹が俳句になぞらえて次々殺される…

第1作「犬神家の一族」から数えて10ヶ月間で3作目というペースで公開された本作。シリーズ物は1、2作目がピークで3作目から出来が落ちることが多いですが、この作品もそうなっているようです。

原作は横溝正史の全作品中、最高傑作とも言われていますが、映画は「原作と犯人が違う」のがウリ。本格探偵小説の犯人を変えてしまったらプロットはガタガタなんですが、そうまでして描きたかったのは、第1作以来一貫する、運命に翻弄される哀しい女性の姿。と言う訳で、原作ではほんの端役に過ぎない勝野と言う女性に司葉子を当てていますが、この時点で誰が犯人だかもうバレバレです。
ただ、犯人が変わってもストーリーそのものは大きく違わないので、最後まで勝野はあまり目立たず、謎解きの段になって唐突にクローズアップ。「砂の器」まがいのお遍路姿の回想なんか入れて人物描写を補強していますが、どうもいささか感動の押し売りじみています。

釣鐘が倒れて首が千切れて飛ぶなどという、原作にない要らずもがなの残酷描写には正直、引きました。これと言い、松竹の「八つ墓村」と言い、当時の洋物オカルト映画の悪しき影響が現れています。

水商売上がりのねーちゃんみたいな大原麗子には、どこにも島で兄を帰りをひっそり待っている純な娘らしい清楚さのかけらもなく、これなら島田陽子の方がまだまし。コワモテで凄んでいる佐分利信の和尚も、とりとめのない怪物じみた人物になってしまいました。当時まだ黄門様だった東野英治郎が久しぶりに憎々しいキャラを演じ、落ち目のアイドル浅野ゆう子は白目の死体役、常連小林昭二もふんどし一丁で頑張っていたのに、この2人のミスキャストで全てがぶち壊し。

ラストシーンでお馴染み加藤武の等々力警部に「みんな俺が間違っていた」と言わせてシリーズを三部作できれいに締めたつもりの崑監督。しかし半年後には早くも不本意な再登板となります。。。
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破戒

島崎藤村原作の映画化(1962年・大映・市川崑監督)。

物語。明治30年代の信州・飯山。
部落出身の素性を隠して小学校の教師をしている瀬川丑松(市川雷蔵)はそのため父の死に目にも会えず、暗く孤独に陥って行く。
丑松が部落民ではないかという噂が流れ始めた或る日、かねてより心の師と仰いでいた部落解放運動家の猪子(三國連太郎)が訪ねて来るが、出自がばれることを怖れた丑松は「あなたを知らない」と言ってしまう。落胆して帰る猪子の姿に丑松はやりきれない思いを募らせる。
翌日、猪子が暴漢に襲われ殺されてしまう。自分が猪子を死に追いやってしまったと責める丑松は生徒たちの前で部落民であることを告白し、嘘をついていたことを土下座して詫びる。
やがて猪子の遺志を継ぐ決意をした丑松は、遺骨を抱いて帰る猪子の妻(岸田今日子)とともに上京すべく、同僚の土屋(長門裕之)や丑松を慕うお志保(藤村志保)、そして生徒たちに見送られて飯山を去って行く。

藤村志保さんのデビュー作として知られる作品。厳密に言えばそれ以前にも本名で数本のチョイ役出演歴があるので、芸名・藤村志保としての公式デビュー作ということになります。

120分の物語のうち90分は出自に悩む丑松の姿がただひたすら延々描かれているので、観ているこっちまで息が詰まるような重苦しさ。
しかし最後の30分でカミングアウトしてからは周囲の人々の励ましで立ち直り、前途に一縷の光明を見出して行くところで終わっています。
部落問題の実情やそこに置かれている丑松の厳しい現実からすると甘い結末に疑問は残りますが、少なくとも見ている方としてはほっとさせられる終わり方ではあります。

生まれながらに宿命を背負った人物を演ずるときの雷蔵さんの演技の素晴らしさは今更言うまでもありませんが、個人的に改めて感じ入ったのは、猪子を演じた三國連太郎の上手さ、大きさ。
確か三國自身が被差別部落の家系に繋がっていることをカミングアウトしていると記憶します。しかしそういう背景を措いても、自らは部落解放運動家として世の矢面に立ちながら酸いも甘いも噛み分けてひとの心の弱さも理解している度量の広い人物を、見事に演じ切ってこの映画に深みを与えていると思います。

藤村志保さんは丑松が下宿する蓮華寺の養女・お志保。
今更言うまでもなくこの役名と原作者の名前から芸名が付いたわけですが、飲んだくれの実父(船越英二)の後妻に嫌われて養女に出たものの、好色な住職(中村鴈治郎)の毒牙にかかっちゃったんだか、かかりそうになっちゃったんだかして、いつも暗い顔をして悲しみに耐えているという役柄。その一方で、部落解放に関する猪子の著作も読んでいるし、丑松の出自を知っても全く動じることない、知的で芯の強い女性として描かれています。現在に至る志保さんの基本キャラクターはこのデビュー作で確立されています。
出演者は他に住職の奥様が杉村春子、丑松の父が浜村純、叔父が加藤嘉、小学校の校長が宮口精二など。
大映の裏の顔(?)しゃくれ顎の伊達三郎が部落民、きつね目の木村元(当時は玄)も丑松の同僚教員の1人で出演しています。

ちなみに、音楽の一部がどうも「八つ墓村」に似てる…と思ったら案の定同じ芥川也寸志でした。まぁ確かにどっちも因習に縛られた田舎の話ですけど^^;


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若親分を消せ

市川雷蔵主演の任侠物「若親分」シリーズの第6作(1967年・大映・中西忠三監督)。

物語。出獄した南条武(市川雷蔵)を出迎えた亡父の親友・三野の弥五郎が殺された。今際の言葉から水上町の新興やくざ鎧組(安部徹)の仕業と睨んだ武は、料亭観月楼の板前になり動静をうかがう。
そこで出会った芸者・千代竜(藤村志保)が秋月中佐の遺児と知った武は、親友・竹村少佐と相談して海軍仲間でお金を出し合い千代竜を身請けする。
一方、鎧組は観月楼の女将(木暮美千代)の息子で海軍兵学校生の勝巳(平泉征)を拉致する。勝巳を救うため、海軍の制服に身を包んだ武は単身、鎧組に乗込む…

このシリーズはタイトル通り当初はやくざの一家を束ねる若親分を主人公にした物語だったはずですが、シリーズ物にありがちなご都合主義でいつのまにか一匹狼の渡世人になってしまった模様。
海軍士官上がりということで、雷蔵さんが海軍の制服姿で颯爽と敵陣に乗り込むのがシリーズの見せ場のひとつになっており、そのあたりに他社の任侠物と差別化を図っている点が窺えます。

今作での藤村志保さんは金貸しの因業ジジイに手篭めにされそうになったところを若親分に救われると言う、か弱いヒロイン役。若親分がやくざどもをバッタバッタと斬り倒していた最中に敵の人質になってしまい、あわや主人公をピンチに陥れるという足手まといなところもヒロインのお約束。そしてラストでは追いすがるところを主人公に振り捨られていく…という、何から何まで典型的な、この手のヒーロー物にありがちなヒロインなのでした。そういう意味では誰がやっても同じような役なので志保さんの個性が薄いとも言えますが、芸者姿がとても色っぽいので(笑)まぁ良しとしましょう。

青二才の平泉成が、若親分が元士官とも知らずとうとうと海軍の薀蓄をたれ後で若親分から諭されるのは笑えます。脚本家市川森一夫人・柴田美保子の初々しいセーラー服姿も見られます。京唄子・鳳啓助の夫婦漫才コンビ(当時)もコメディリリーフとしていい味出しています。ただ橋幸夫の挿入歌には閉口。


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マタンゴ

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世界的にも著名な和製ホラー映画(1963年・東宝・本多猪四郎監督)

物語。お金持ちの道楽息子・土屋嘉男のヨットで太平洋に繰り出した7人の男女…土屋の愛人のクラブ歌手・水野久美、土屋の部下で艇長の小泉博、流行作家・太刀川寛、臨時雇いの船員・佐原健二、大学助教授・久保明、その教え子で恋人の八代美紀。しかし嵐に合って漂流し無人島にたどりつく。そこは食べたらキノコ人間になってしまう「マタンゴ」に支配された恐怖の島だった…。

この映画を子供の頃テレビで見て以来、キノコが大嫌いになりました。今でもキノコを見ると反射的に「マタンゴ」と思ってしまう原体験を共有する人は多いはず(でもないか)。
もう怖くて怖くて。ストーリーは全く覚えていないのに、ひとり生き残って日本に帰還した久保明が最後に振り向くと…!と言う衝撃のラストシーンと、艶然と微笑みながらキノコを口にする水野久美の姿だけはずっと目に焼きついていました。
さすがに今見るとちっとも怖くないし、マタンゴの着ぐるみ造形などはチープで笑ってしまいます。しかし、子供の頃はわからなかった心理ドラマとしての面白さには惹かれます。
今までうわべは仲の良い友達として振舞っていた連中が、閉ざされた空間の中で食べ物と女を巡ってエゴ剥き出しの諍いを始めたり、文明社会でこそ幅をきかしているインテリどもがちっとも役立たずで、肉体派の佐原健二が一番逞しかったり…。
土屋嘉男が缶詰をこっそり盗み食いしようとした時、他のメンバーたちが見て見ぬ振りをして事なかれ主義を決め込むあたりは、日本人ならさもありなんというなかなか人間観察が行き届いた描写です。また、一生懸命恋人のため食べ物を探してきたのに「これだけ?」と言われてしまう久保明の情けなさには、なんか見ているこっちもしょんぼりと言う感じ。ただ、最も良識的な理性派に見えた小泉博が仲間を裏切り食料をかっさらって1人で逃亡するという展開は全く読めませんでした。マタンゴより恐ろしいのは人間の心と言うことですね。
ちなみにこの映画、公開時の併映作は「ハワイの若大将」だったのだとか。どういう組み合わせじゃ。
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