炎上

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原作は三島由紀夫の小説『金閣寺』(1958年・大映・市川崑監督)

物語。昭和19年、溝口吾市(市川雷蔵)は亡父(浜村純)の遺言により驟閣寺の徒弟となる。吃音コンプレックスのため周囲から孤絶している溝口にとって、唯一の心の拠り所は父から「この世で最も美しいもの」と教えられてきた驟閣であった。しかし戦後、驟閣が俗化していく様に溝口は失望する。更に友人の戸刈(仲代達矢)から、尊敬していた老師(中村鴈治郎)が戒律を犯して女色に溺れていることを知らされ不信と絶望に陥る。驟閣が汚れることから守るため、溝口は放火を決意する…

三島由紀夫の『金閣寺』は二度映画化されています。
一度目が本作で、二度目がその18年後(三島死後)にATGで製作された「金閣寺」(1976年・高林陽一監督)。
本作の場合、実際の金閣放火事件(1950年)の記憶もまだ生々しく残っている時期の映画化と言うことで、フィクションであることを明確にするため原作の金閣寺を驟閣寺という架空の寺に変え、タイトルも「炎上」に変更されています。
更に、違っているのは名前だけではありません。原作から「性」に関する描写やテーマそのものがすっぽりと抜け落ちています。

まず、主人公の初恋の人であり運命の女性である有為子が登場しません。「妊婦の腹踏み」(^^;)や生花の師匠の「母乳飛ばし」(^^;;)のシーンがありません。肝心の「セックスを妨げる金閣の幻影」のイメージも全く出てきません。
市川崑監督自身の美意識もあったろうし、時代的な制約もあったろうし、或いは大映の看板スターである清潔な雷蔵さんに、そんないやらしい役はやらせられないと言う、営業的な制約もあったかもしれません(ちなみに「眠狂四郎」はまだ先)。
いずれにしろ、これだけ骨抜きにされてしまっては、もはや三島原作とは言い難いです。三島作品に素材を借りたオリジナル映画作品と捉えた方がいいのでしょう。

例えば、映画の冒頭は、放火事件後に主人公が警察で尋問されるシーンと言う、原作には全くないエピソードから始まっています。小説は一人称による「私」の主観的視点で書かれているのに対し、映画では、全く逆のベクトルで、第三者の視点からアプローチしているわけです。実際、文学ならいくらでも内面描写が可能なわけですが、映像ではそうも行きません。その為、母親(北林谷栄)との関係、老師(中村鴈治郎)との関係の描写に原作以上の比重を置くことで、主人公の内面を外側から浮き彫りにする作業を行っています。

吃音によって人間関係がスムーズに結べない主人公は、他人からも社会からも孤絶してしまっています。一見、慈悲に満ちた理解者の如く装っていた老師もまた単なる俗物の偽善者に過ぎず、戦後俗化して汚辱に塗れて行く驟閣の体現者であるかのよう。おまけに、障害を逆手にとって世の中を斜に構えて見ているかのようだった友人の戸刈も実は強がりを言っているだけの一個の弱者であったことを暴露してしまいました。人間にも現実にも、全てに絶望してしまった主人公は、驟閣に火を付けるに至るのです。
ここで驟閣(金閣)は、観念的な美の象徴と言う意味合いを全く与えられていません。専ら主人公にとっては、亡き父の愛した「親和的な存在」以外の何者でもありません。しかし原作の場合、親和的であると同時に自分の生を無力化する「目の上のたん瘤」でもあるという、むしろ愛憎半ばする存在と言う感じだと思うんですけどね。従って、原作の主人公が金閣を燃やした後で「生きようと思っ」て終わるのに対して、映画では、世俗的現実から驟閣の永遠の美を守ったことだけでもはや満足してしまったかのように、抜け殻になって自ら死を選ぶのです。

主演の雷蔵さんは、これが現代劇初出演でした。当時の若手人気スター、言わばアイドルが坊主頭になって、吃りの、それも放火犯を演じたのですから、大映内部からは反対の声も上がったようですが、雷蔵さんはそれを押し切って自らの出演に固執したとのこと。常に上目遣いで口を半開きにして、世間と自己の内面とのギャップに悩む主人公を見事に演じています。演技者としての己れを徹底するこの姿勢は、所詮演技を片手間にやってるに過ぎない今時のタレント風情にはマネできないことでしょう。
中村鴈治郎も二面性のある人間くさい老師を好演しています。あと浜村純って、1950年代から90年代までのどの作品を見ても、いつも殆ど同じで変わらないのが不思議ですね。
(過去記事を改稿しました)
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