刑事コロンボ 仮面の男

1975年/米ユニヴァーサル/1977年9月24日NHK放送
物語。経営コンサルタントのブレナー(パトリック・マクグーハン/声・佐野浅夫)の正体はCIAのエージェント。二重スパイを働いた過去を元同僚のヘンダーソン(レスリー・ニールセン/声・家弓家正)に握られていたブレナーは、ものとりの犯行に見せかけ殺害する。コロンボ(ピーター・フォーク/声・小池朝雄)はブレナーの犯行と睨むが、捜査にCIAの圧力がかかる…シリーズ34作目

これを子供の頃最初に見たときはかなりハラハラドキドキしました。何せ相手はCIA、下手するとコロンボは消されちゃうのではないかと…。そんなわけないんですけどね。
でも今改めて見ると、むしろギャグドラマに思えてしまう部分も多いです。
まず冒頭、遊園地で目立ちすぎる犯人。射的で100発100中の腕前を見せたり、異様にドでかいパンダの人形を持ち歩いたり…これ意図的に第三者に印象を残そうとしてるのかと思ったら、全然そうじゃないんですね。スパイのくせに、しかもこれから同伴者を殺そうとしていると言うのに不用心もいいところです。
中盤、コロンボに圧力をかけるため現れるCIA及びその部長は「いかにも視聴者がドラマや映画でイメージする諜報員」そのまんま。更にブレナーによるスタインメッツの変装に至っては、噴飯物です。あまりにもCIAが戯画化され過ぎていることに違和感が拭えません。
尤も、後で気が付きましたけど、これらの典型的なスパイドラマじみた演出は、わざとやってるんですね。
と言うのは、犯人役のマクグーハンって、もともとテレビドラマの諜報員役で人気を博したことで有名な人だったそうです。つまりこの話は、最初から「コロンボ対諜報員」と言う、マクグーハンのイメージを当て込んで作られていたわけです。日本で言えば「古畑任三郎」に石坂浩二=金田一耕助が、犯人役で出演したのと似たようなもんなんでしょう。その辺の事情を知らない日本の視聴者には、誇張された諜報員の描き方が奇異に映るのも無理はないわけです。
ただ長年かかってCIAでさえわからなかったブレナーの正体をコロンボがわずか数日で見抜いてしまったのは、やりすぎでしょう。 CIAがバカなのかコロンボが神なのか、と言うことになりますから。
最後にアリバイ崩しの決め手となったのは、録音テープに「入るはずのないものが含まれていた」と言うもので、「アリバイのダイヤル」と似たパターン。ただ、それまでコロンボがアリバイ崩しに奔走していた形跡はなく、最後になって取ってつけたように持ち出されるだけなので、あまり出来のいい結末とは言えません。
ちなみに決め手となった「中国のオリンピックボイコット」って、なんのことだろうと思ったら、この当時中国は台湾問題に抗議して、実際にオリンピックをボイコットしていたそうです。

しかし、そんなことよりこのエピソードの中で最大に悩ましい「謎」は、ラストでのコロンボとブレナーの会話です。

コロンボ 「面白い話があるんです」
ブレナー 「ほう?」
コロンボ 「ある日、ポーカーとマージャンが賭をした」
ブレナー 「で、どうなった?」
コロンボ 「はじめはポーカーが優勢、ところが後半…」
ブレナー 「逆転」
コロンボ 「その通り」

これのどこが「面白い話」なのかわからないし、物語の締め台詞として何を意味しているんだかも、さっぱりわかりません。
「コロンボ」のファンサイトさんhttp://www.clapstick.com/columbo/faq/presc2.html#8によれば、この部分をオリジナル英語版ではこう言っているようです。

Columbo "Would you like to hear something funny?"
Brenner "I'd love to."
Columbo "Today, Chinese...they changed their minds."
Brenner "Did they, again?"
Columbo "They're back in the games..."
Brenner "in the games....Mah-Jong."
Columbo "Mah-jong."

小説版(二見書房サラ・ブックス)によれば、次のような内容になります。

コロンボ 「ブレナーさん、笑い話があるんですよ」
 コロンボはブレナーの背中に話しかけた。
ブレナー 「ほう?ぜひ聞きたいね」
コロンボ 「きょう、中国人が気を変えたそうで、ゲームに参加するそうです。」
ブレナー 「ゲームに?マージャンのだろ?」
コロンボ 「わかっちゃいましたか」

と言うわけで、吹き替え版とは似ても似つきません。つまり吹き替えの台詞は、オリジナルを全く無視した「創作」だったわけです。
ただ、オリジナルの方を見ても、相変わらず何を言いたいんだかよくわからないし、「どこが笑い話なんだ?」と言う謎も解けません。

思うに、この会話の意味を理解する上での大きな間違いは、別にこれは「笑い話=ジョーク」でない、と言うことです。
まず、funnyには「奇妙な、変な、不思議な」のような意味もありますので、ここは「笑い話」と言うより「妙な話」ぐらいのニュアンスでしょう。また、コロンボがここで「ゲーム」と言っているのは、前後関係からして「オリンピックの試合」であることも明らかです。従ってコロンボが言っているのは「不思議なことに、オリンピック不参加を表明していた中国人の気が変わって、やっぱり参加すると言い出したそうですよ」ということです。
では、中国のオリンピック参加問題にかこつけて、コロンボはいったい何を言わんとしてるのか?
ここで忘れてはいけないのは、この話を向けている相手がブレナーだと言うことです。つまり中国を出汁に使って、コロンボは暗にブレナーの「何か」をほのめかしているです。となればそれは、物語全体のテーマからして、ブレナーの正体が「二重スパイ」だった、と言うこと以外に考えられません。
要するにコロンボは、オリンピックに参加すると言ったりしないと言ったり、その時々で態度を変える中国にかこつけて、状況に応じて敵についたり味方についたり、立場を使い分ける二重スパイのブレナーのことを揶揄しているわけです。
それに対してブレナーの方でも、コロンボの言葉に自分への毒が含まれているのを見抜いた上で、「ん?マージャンの話かね?」とすっとぼけて、話をはぐらかして受け流している…
と言うのが、この会話の「意味」でしょう。そう考えるのが最も辻褄の合う解釈だと思います。。
最後に残るもうひとつの「謎」は、それならそうでオリジナル版そのままに訳せばいいものを、何故日本語版では「ポーカーとマージャンがどうのこうの」と、わけのわからない訳を「創作」をしたのか、と言うことです。
これは完全な推測になりますが、「中国への政治的配慮」からではないでしょうか。
と言うのも、NHKでこのエピソ-ドが初めて放送された1977年当時は、翌年締結される日中平和条約をめぐって、外交交渉がデリケートな状況を迎えていた頃なんですね。しかも日中条約は2年前にも1度、交渉が決裂していたのです。なので、いくらテレビドラマの中とは言え「態度を変える中国」を当てこするような台詞を流すのは好ましくない…という、いかにもNHKらしい「配慮」だったのではないか、と推測するわけです。
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