醜聞(スキャンダル)

1950年/松竹/黒澤明監督
出演/三船敏郎、山口淑子、桂木洋子、志村喬、北林谷栄、千石規子、小沢栄(小沢栄太郎)、左卜全ほか
物語。画家の青江一郎(三船敏郎)は、山で偶然知り合った人気声楽歌手の西條美也子(山口淑子)と一緒にいるところをゴシップ誌のカメラマンに盗み撮りされて嘘の熱愛記事を書かれる。怒った青江が告訴を検討しているところへ、蛭田(志村喬)と言う貧乏弁護士が自分を売り込んで来る。善良そうな蛭田を信用した青江は弁護を依頼するが、蛭田は雑誌社の社長(小沢栄)に買収されてしまう…

労働争議でホームグランドの東宝を離れていた黒澤明が松竹で撮った作品のひとつ(もう1本は「白痴」)。黒澤映画の中では、殆ど話題にならない作品です。私も見るの初めてでしたが、思っていたより面白い。何より、三船敏郎が愛用のバイクを乗り回す新進気鋭の画家の役で、後ろに山口淑子を乗っけて爆走(本当に)する姿に、びっくり。

物語は、今で言えばさしずめ写真週刊誌にデッチ上げでフォーカスされた(って言う表現も古いが)有名人が事実無根の名誉毀損で告訴すると言う、きわめて現代的なお話。対する小沢栄太郎扮する雑誌社社長が「抗議されたら誰も読まない様なところへでも小さく謝罪広告を出しとけばそれで済む」とか「告訴されたら却っていい宣伝になる」などと嘯いてせせら笑っているところもリアル。今のマスコミの姿勢も全く同じでしょう。序盤では、人一倍正義感は強いが無骨で法律には疎い三船、卑劣で狡猾な小沢、戸惑う山口、そして騒ぐ世間など事件にまつわる人々の姿がテンポ良く描かれます。でも、その後は少し趣きが変わって行きます。俗悪なジャーナリズムと戦う物語はずが、志村喬扮する弁護士が主役のヒューマニックな物語に転じるからです。

お人よしの貧乏弁護士の志村は、義憤に駆られて三船の弁護を勝って出たものの、酒と賭け事が好きで意志薄弱な性格を小沢の見抜かれ、まんまと買収され弱みを握られてしまいます。その結果裁判ではシドロモドロで三船を満足に弁護することができず、きわめて不利な形勢に…と言うのが中盤以降のストーリーで、根は小心な善人の志村が良心の呵責で煩悶する姿は、後の「生きる」を彷彿させる名演です。
最後は、父親の正義と三船の勝利を信じていた病気の娘・桂木洋子の死をきっかけに志村は良心を取り戻し、小沢の不正の事実を告白して三船を逆転勝利に導きます。ダメ人間が「死」をモチベーションに生まれ変わるというのも「生きる」に似ています。
ただ、黒澤が描きたかったのは、マスコミの暴力なのか、更生する男の物語なのか、それともその両方なのか。話をまとめ切れていないきらいがあります。表看板の三船と裏主役の志村に中身が分かれてしまっているように思えるので、そのあたりが名作と言われなかった原因でしょう。

マスコミ禍に遭う主人公の職業を画家と声楽家にしたのは、芸術家=純粋/マスコミ(世間)=不純というわかりやすいイメージのためだったのかもしれませんが、それにしても三船さんが画家というのは究極のミスマッチのようにも見えます。山口淑子の歌に合わせてオルガンを演奏するシーンもあって笑ってしまうのですが、一方でクリスマスツリーをバイクに乗せて街中を駆け抜ける姿にはヨーロッパ映画のような格好よさがあります。
元李香蘭の山口淑子はエキゾチックな美貌が目を引きますが、物語の中での存在感は薄く、むしろ天真爛漫なモデル役を演じた千石規子の方が光ります。
小沢栄太郎を筆頭に、黛敏郎夫人である桂木洋子、映画初出演で既に老け役の北林谷栄、神田隆、増田順司など他の黒澤映画では見ない顔触れが出ているのも目を引きます。
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