静かなる決闘

1949年/大映/黒澤明監督
出演/三船敏郎、三條美紀、志村喬、千石規子、植村謙二郎、中北千枝子、町田博子、須藤恒子、伊達正ほか。
物語。戦争中、軍医だった藤崎恭二(三船敏郎)は手術中に誤って指を傷つけ、患者(植村謙二郎)の梅毒に感染してしまう。そのため戦後、婚約者(三條美紀)との結婚を諦めようとするが…

これはある意味ですごい作品。三船敏郎がナイーブな青年医師の役。それも梅毒のために結婚を諦め、自らの性欲と闘うってんですから(直接には梅毒との闘いですが)、なんと言う話でしょう。黒澤が東宝争議中に大映で撮ったうちの1本です(もう1本が「羅生門」)。

三船が三條との結婚を諦める理由は、言うまでもなく、相手にも梅毒をうつしてしまうからですが、ただ事情を言えば三條は治るまで待つと言うに決まっているから、それでは彼女が可哀相だ、と理由も告げず婚約を解消します。一見どこまでも相手のことだけを思いやった立派な態度ですが、実はそれは表向き。
本当は、三條への性欲を抑えねばならない辛さ、目の前にご馳走をぶら下げられていながら食べられないのだったら、いっそのこと目の前から消えて欲しいと言う、かなり切羽詰った気持ちからなのでした。それまでストイックな聖人君子を装っていた三船がついに堪え切れなくなって涙を流すシーンは、問題が問題だけにと言うか、演じているのがあの三船さんだし、見ている方としてもどう反応していいか戸惑うところです。
尤も三船はあくまで人間としての理性や医者としての使命感、良心などで欲望を封じ込め、根気良く病気の完全治癒まで闘う、と言う方に映画のテーマはあるわけで、三船に病気をうつした元凶の植村謙二郎の方は自堕落な生活を続けた挙句に脳にまで梅毒が達して発狂してしまう、という姿を対比させています。ただ、過剰なまでに両極端な人物を配置したがる黒澤が、どちらもエキセントリックに描き過ぎているために、共感も反発も呼びにくいのが実情です。
物語の現実離れを引き止めているのは、千石規子の演じる元ダンサーの見習い看護婦の存在。登場人物の中で最も人間くさい彼女が三船のホンネを引き出したり、話がきれい事に流れそうな時に核心を突く発言をする狂言回しの役割を果たす一方、彼女自身が劇中を通じて成長していく姿を見せることで物語にリアリティを与えています。千石規子は「酔いどれ天使」「醜聞」でも重要な役を演じていたし、この時代の黒澤映画にとってはキーパーソン的な女優さんだったと思います。

三船敏郎は「酔いどれ天使」に次ぐ黒澤映画出演2本目で、「酔いどれ天使」は破滅するヤクザ、この映画が青年医師で次の「野良犬」が若手刑事、「醜聞」では新進画家と、黒澤作品だけ見てもいろいろな役をやっていた頃です。最終的には「羅生門」で演じた多襄丸的な、豪快で野性味のあるキャラクターが三船さんのはまり役になって行くんでしょうけど、この映画で見せたような繊細で苦悩する役柄もなかなか味わい深かったです。
三船の父親役が、志村喬。親子関係的な役柄を演じることの多かった2人ですが、本当に親子の役はこの作品だけです。三條美紀には「ウルトラセブン」のゲスト出演とか「犬神家の一族」とか中年以降のイメージが強くて、若い頃の姿はなかなか見られないのですが、清純で芯の強いお嬢様の役を演じています。面長の顔立ちなので、娘さんの紀比呂子とはあんまり似ていないですね。大映作品にもかかわらず主要な出演メンバーは東宝の黒澤組が占めているので、大映専属で目立つ役は三條、植村、看護婦役の町田博子ぐらいしかいなかったのがちょっと残念。
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